​理事長の部屋

​President's room

私の在宅履歴書

October 1, 2018

いつもの風景

 

 私が所長を務める渡辺西賀茂診療所(以後、診療所)の3階には在宅医療に興味があると集まってきた医師や看護師、理学療法や作業療法士、そして、介護支援専門員や訪問介護のスタッフなど医療・介護の多職種が一同に会し机を並べている。

そして、私は今、午前中の訪問診療を終え、部屋の入り口から一番遠い位置にある机に座りこの原稿を書いている。

 

同じ部屋の真ん中辺りでは、訪問系のスタッフにデイサービスやショートスティ、グループホーム、そして、地域の包括支援センターのスタッフも来所し、なにやら熱心に話し込んでいる。

 

あのメンバーが集まっているということは、昨日、大学病院の救急室からSOSがあり緊急で往診に行った、柳田さんのことだと察しがつく。

 

柳田さんは、後期高齢者で独居。夜になると「腰が痛くて動けない」と救急車を呼んでは病院行き、病院につくと「なんでこんな所に連れてきたんや」と怒り、日頃は疎遠である息子さんが連れて帰るという日々が続いていたとのこと。この柳田さんを「地域でどのように支えようか?」と話し合っているのだろう。そして、もう少しすると、あのスタッフ達は私が原稿を書いていることもおかまなしに、私を囲み話しの続きをはじめるだろう。そして、私も原稿を打つ手をとめ、スタッフ達と一緒に話し込むのだろう。

おかげでこの原稿の締め切りはもう10日も過ぎている。

 

しかし、私はこの風景が気に入っている。

 

もちろん、はじめからこのような多職種の体制や思いがあったわけではない。この風景が自然とあたり前になるまでには、診療所開設から20年近く要した。

 

在宅での医療を支えるということは、当然の如く24時間365日体制で、患者さんの生活を支えることに他ならない。

つまり、患者の疾患のみをみるのではなく、疾患や背景を含む患者の生活全体に寄り添う必要がある。

そのためには、医療と介護多職種のスタッフの連携、患者さんのお宅に伺った時だけではなく、患者さんには見えないところで繰り広げられるこの様な風景が必要なのである。

 

 

私の在宅医療履歴書

 診療所は強化型の在宅療養支援診療所である。

診療所は京都市の北に位置し、そばには賀茂川が流れ、賀茂川を挟んで東側には、世界遺産である上賀茂神社、診療所の西側には五山の送り火で有名な船山がある。そして、少なくはなったとはいえ田畑が残り季節ごとの野菜を実らせている。

私は、この自然に恵まれた地域で生まれ育った。そして、自分の生まれ育った地域で在宅医療と介護を行えていることに縁を感じている。

 

とはいえ、在宅医療も介護も計画的に始めたわけではない。

 

当初は、妻がこの地域で外来のみの医院を開業していた。

その頃、私は勤務医として病院に務めながら、医院の手伝いをしていた。しかし、開院から10年過ぎた頃、ひとりで通院していた患者さん達が家族に手をひかれ通院するようになった。

そして、それからしばらくすると通院することが困難になり、往診の希望が増えていった。

 

これで医療の提供はできたとしても、次の問題が生じてきた。

 

介護が必要になった親を置いて仕事にいくことができないと家族が外来に駆け込んできた。

 

私は考えたあげく、医院の2階にディケアを開所することにした。

介護保険創設前のことであった。

 

馴染みの地域での訪問は、思いの他楽しかった。

 

病院や外来診察だけでは見えてこなかったひとりひとりの患者さんの物語がそこにはあった。

そして、私は在宅医療に魅力を感じ、主に訪問診療を担う診療所を開業し在宅医療に専念することにした。

そして、患者さんと出会う度にこの患者さんが在宅で過ごすために、今、何が必要か、また、地域の方は何を望んでいるかなどを考えているうちに、ひとつまたひとつ介護サービス事業所が増えていったというのが実状である。

 

在宅での物語と“おせっかい”

在宅の現場は物語に溢れている。

私は、その物語を紡ぐ際のキーワードは”おせっかい”だと考えている。

 

”おせっかい”は「お節介」と書くが、別に「切匙」(せつかい)という言葉もある。

擦り鉢で食べ物や薬をすると鉢の内側に筋に砕かれた粉がつまる。その粉を書き出す道具が「切匙」なのだ。つまり、痒いところに手が届くということである。

これを在宅医療の現場に置き換えると、


「出会った患者さんの物語をよりその人らしくするための必要なこと」であると考える。

 

おせっかいの内容には画一的なものはない。

例えば

「苦痛だけをとってもらい、あとは家族とゆっくりと過ごしたい」

 

「余命を告げられたが、最後に毎年いっていたディズニーランドに子どもと一緒に行きたいので、ついて来てほしい」

 

など言葉で伝えることができ、光景として見えるものがある。

もう一つの”おせっかい”は、患者さんや家族の言葉にならない気持ちを感じ取り、相手の心を気づかいながらそばにいることではないかと思う。

 

そうそう、前述した柳田さんであるが、私が主治医を引き受けてから、膵臓癌があることがわかった。きっと腰の痛みは高齢のためだけではなく、癌性疼痛だったのだろう。また、すぐ救急車を呼ぶのも認知症のためだけでなく、痛みが出現する中ひとりでいることの不安の表現ではないか。そして、痛みの緩和を物忘れのある柳田のおばあちゃんにあった方法で行い、また、何度も多職種、家族や地域の人を含めた話しあいをもち、時には、看護師やケアマネが一緒に検査についていくなどの”おせっかい”をやいた。

そして、その”おせっかい”が通じたのか疎遠だった子どもさんたちも、交替で柳田さんに付き添うようになった。

 

そして、柳田さんは、希望だった家で子どもさん達に囲まれ穏やかに旅立った。

 

せめて、ご縁があった患者さんに各々の患者さんにあった”おせっかい”を。

 

それが私達の診療所の思いである。


そして、各々の患者さんに似合った”おせっかい”を多職種が連携しおこなうことにより、その方らしい物語が紡げた時、私達は在宅医療・介護の魅力という贈り物を患者さんや家族からいただき、その経験が、また次の患者さんの在宅医療・介護に携わる力になると思うのだ。

 

 

参考文献

渡辺西賀茂診療所編:京都の訪問診療所 おせっかい日誌,幻冬舎,東京,2018

 

0歳~100歳までの在宅医療と地域連携を考える専門雑誌「在宅新療 0-100」10月号掲載

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