​理事長の部屋

​President's room

西賀茂診療所 モノ語り その2

November 14, 2016

在宅医療の現場にはいろいろな物語が交錯している。

患者さんを主役に同居家族や近くの親戚、遠くの親戚、医療や介護のスタッフ、近隣住民などが脇役となり在宅劇場が始まる。

 

私も脇役の一人です。

いつもは往診鞄の中に入っていて中々出番がありません。点滴用のS字フックです。

脱水や発熱の患者さんが出た時には私の出番です。家の鴨居にある釘にヒョイと掛け点滴をぶら下げるために使われます。

最近は余り出番がありません。

と言うのも最近はクリーニング屋さんが使う金属の針金ハンガーに取って代わられているからです。気軽にどこにでもあり変幻自在に変形できる便利なツールです。

引退の時期も早いかなと思っています。

なにせ相手は無料。最近クリーニングされたYシャツには必ずついています。

地味な私ですが活躍する時は少し緊張感があります。いつも私単独で利用されることはなく点滴セット君とセットでお仕事をさせてもらいます。

 

ある時なんかとても緊迫したムードがありましたね。1年前からいつも外来に通院されていた患者さんが癌という病気でちょこちょこ入院されていました。

 

「もう長くは生きられない」

 

という認識が、家族の間でできていたのでしょう。

家族からは「オカーサン」と呼ばれていました。

そのうちに私の入った往診鞄を持ったご主人様が往診するようになりました。

オカーサンはだんだん口数が少なくなり寝る時間が長くなりました。

そしてオカーサンは次第に食べられなくなりました。

オトーサンは往診に来たご主人様を捕まえてこう言いました。

 

「先生、やっぱり点滴してやってもらえませんか?」

 

ご主人様は死期が近づいている今点滴しても病状は好転しないよ、みたいなことを言っていました。がオカーサンの診察が終わった後オトーサンはこう切り出しました。

 

「オカーサン、食事も入らないし、先生に点滴でもお願いしようか?」

 

オカーサンはしばらく黙っていましたが、やがてゆっくりとうなずきました。

浮腫や痰や胸水が増えない様、一日300cc輸液することになりました。

いつものようにどこからこの点滴を吊るすか、みんなで知恵をしぼりました。

状況はかなり深刻だったのですが、あちこちを皆で捜しようやく鴨居にある釘を見つけました。

そこで私の出番です。

往診鞄の底にいる私をご主人様は手探りで引っ張り出し、有無を言わせず鴨居の釘に引っ掛けました。そして点滴を私の曲線部につるし輸液を開始しました。

しかしながら点滴開始から1週間も持たずオカーサンは旅立たれました。

ご主人が看取りに伺った時オトーサンは私にも聞こえるように

 

「やれることは、すべてやりました。有難うございます。」と。

 

帰りの車の中でいつもは余り点滴を好まないご主人様が呟いた一言が

 

「点滴って奥深いなあ」

 

でした。

あの点滴は脱水補正の為でもない、薬の投与の為でもない、オトーサンのための点滴だったのかもしれません。

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

最新記事

December 3, 2018

October 1, 2018

September 30, 2018

Please reload

アーカイブ
Please reload

​講演・講師派遣

​研修・人材育成

研修受け入れ状況・実績

法人内研修実施状況・実績

​地域活動

​オレンジカフェにしがも

Miyakokai Medical Care System

〒603-8832 

京都市北区大宮南田尻町59 医療福祉複合施設にしがも3F 

TEL   075-493-2628 / FAX 075-493-5584 / Mail Jfl@miyakokai.or.jp

copyrightⓒ 医療法人社団都会